3/14 農林漁業体験における「リスクマネジメント」について学ぶ研究会を開催しました!

農泊や体験プログラムを受け入れる側にとって、何より重要なのは、参加者の方々が最後まで、怪我なく、「安全」「無事」に体験を終えることができること。そのためには、受け入れ側の日頃からの、リスク管理、リスクに対する「意識づけ」が重要となります。

1件の重大な事故の陰には、300件の、「ヒヤリ」や「ハット」する場面が潜んでいる、というハインリッヒの法則について、聞いたことがある方もいるかと思います。

今回は、観光、都市農村交流、民泊問題にも取り組まれている、新潟経営大学観光経営学部の出口高靖先生を講師にお招きして、講義とワークショップなども交えながら、リスクマネジメントについて学びました。参加者は、地域活性化やグリーンツーリズム活動に取り組まれている方々をはじめ、行政関係、地域おこし協力隊など17名。

 

導入として、「近年起きている死亡事故の例」として、日本人の近年の死因トップ10は、悪性新生物など病気に次いで6番目に事故死が多く、中でも、窒息(食物の誤嚥)、転倒、溺死、など交通事故よりも増えていること、また、天候の変動による熱中症や凍死による死亡者も出ており、特に熱中症は、10年前の2~5倍と増えている、ことが紹介されました。

 

続いて、本題へ。そもそも、リスクマネジメントはなぜ必要なのでしょうか? それは、一言でいえば「持続、継続する組織、団体であるために必要だから」です。何か事故を起こせば、経営的損失だけでなく、組織の信用の失墜や低評価につながるからです。

そこで必要になってくるのが、「リスクの洗い出し→見える化→共有する(マニュアル化する)」こと。出口先生は、ペーパー1枚でもいいから、マニュアルを作ることを力説されています。最初は簡単なものでもいいので、形にしたものを作ること。万一、何か事故が起きてしまった場合、このマニュアルの有無が、大きく影響してくるそうです。「最初は簡単なものでいいので、それにどんどん付け加えていき、マニュアルを分厚くしていく」のが大事なのだとか。

 

リスクについて留意すべき点として、1、リスクは隠れている 2、リスクは繰り返す 3、リスクは変化する が挙げられます。近年の異常気象、酷暑の影響で、昔は考えられなかったような、室内での熱中症による事故も起きています。時代や気象によっても、起こるリスクは変化するのです。

 

リスクへの対応として、「回避」(リスクを避けるために、行動そのものを中止する)、「転嫁」(保険や共済などに加入し、リスクを他に移す、分担する)、などが挙げられます。「回避」にあたるのは「最大のリスク」で何としてでも、避けるべきものを指します。たとえば、屋外での活動で雷が鳴ったら、即、プログラムは中止するのが昨今の潮流です。眼の前にあるリスクに対し、的確に判断し、時によっては、中止を決断するのも、参加者を守るために大事な姿勢です。

 

たとえば、農泊など、子どもの受け入れ&体験を終えたら、反省を踏まえて、「今回、良かったことや楽しかったこと」「困ったことや難しかったこと」「よりよくするためにできること」「改善すること」の4つの側面から意見を交換すると、そこに「ヒヤリハット」が潜んでいることも。反省だけでなく、必ずセットで「良かったこと」「楽しかったこと」など、プラスの側面もシェアすることが大切とのお話でした。

 

続いて、「事故事例から読み解くリスクマネジメント」として、子どもの行動特徴と健康問題を折り込みながら、様々な事例が紹介されました。そのいくつかをご紹介します。

①農作業中の機械による事故→農作業中に中学3年生がわらを切る農機具にわらが詰まったことから、取り除こうとして、指をはさみ、切断。近くに農家の人はいたが、引率の教諭ついていなかった。農作業中に何か起きたらまず最初に機械の電源を切る、が基本。

 

②遠足での滑落事故→小学4年の女児が昼食後に公園内を走り回っていて崖から転落、死亡した事件では、教諭が下見に関し、十分でなかった、過失があったとして、学校の設置管理者である市、公園の管理責任者である県(転落防止の手段を講ずるべきだった)の過失を認めた。一方、女児は教諭から現場で走ってはいけないと注意されていたにも関わらず、走ったことに過失があるとして、「過失相殺」ともなった(市の責任は5割、県は、危険な崖を放置していた責任は重いとし、2割のみ減額)

 

③川遊びでの事故→2010年、起きた事故。1泊2日のバスツアー「農村チャレンジキャンプ」に参加した小学3年生が川で沈んでいるのを発見され、病院に搬送されたが死亡した。本来ならば、指導者が「これから、川遊びを始めます」と合図を出す前に、子どもが川に入ってしまった事例でした。刑事責任は裁かれたものの、民事はいまだ解決しておらず、こうした事故事例は、加害者側も一生、PTSDに苦しむことになる、とのお話が切実でした。

子どもへの指導ポイントとして、①集合 ②説明 ③役割分担 ④点呼を取る が挙げられました。また、予定していないプログラムは、突発的に「やらない」ことが前提。子どもは、「ここで泳ぎたい」など、予想外のことをリクエストすることがあるが、「予定表にない活動はしない」がリスク回避のカギとも。

また、近年の傾向として、増えている「食物アレルギー」による事故事例の一つは、小学6年の男子が給食で出たそばを食べ、アレルギーを発症、強度の喘息発作により、異物を誤飲して窒息死した、というもの。

普段ならば、給食にそばが出る時は母親が代替食を持たせていたが、この日は母親が持たせなかった。教諭は「そばを食べないように」と注意したが、子どもは三分の一ほど食べてしまった。その後、顔中にブツブツが出たため、病院へ行くため児童を一人で帰宅させた。その帰宅途中、吐き、その異物が喉に詰まって窒息死した、という事故。

 

アレルギー食品を食べてしまった時の原則は、

①教員に伝え指示をあおぐ

②119番

③嘔吐物が喉に詰まらないよう見守る

④抗アレルギー薬とエピペン、

が挙げられます。

エピペン、聞いたことがありますか? ハチや食物アレルギーなど、アナフィラキシーに対する緊急的な補助治療に使われる医薬品で、太ももの前外側へ筋注します。エピペンを打つのは医療行為に当たらず、使用者は、患者本人のほか、救急救命士、保育士、教職員も可能です。「呼吸困難などの重い症状が出たら迅速に注射すべき。副作用は小さいので、迷ったら打つ」と力説する大学医学部の先生もおられます。。

 

また、熱中症による事故事例として、高校のテニスクラブ活動中、生徒が熱中症に羅漢、重大な後遺症障害が残ったとして、活動に立ち会っていなかった教諭の過失が認められた、というものがあります。

→事故当時、テニスコートは30度前後の高温で、地表面はさらに10度ほど高温だった。顧問教諭として、水分補給に関する特段の指導もせず、水分補給のための十分な休憩時間を設定せず、練習の指示を出したことは熱中症を防止する義務に違反したとして、介護費用、慰謝料など、総額2億3000万余の支払いが明示された。

→熱中症対策には「水」よりも「経口補水液」を(電解質と糖分のバランスが考慮された飲み物で、脱水症状に適している)。

 

食中毒による事故事例

国立大学の学園祭で、学生が模擬店で販売したクレープが原因の食中毒が発生。症状を訴えた人は77名に上った。調査で、クレープ生地、調理器具等から黄色ブドウ球菌が検出。クレープ生地を前日から作り置きし、冷蔵庫等に保存していなかったことが原因。

細菌による食中毒には、感染型(腸炎ビブリオ、カンピバクター等)と、毒素型(黄色ブドウ球菌)があります。毒素型は、菌自体には毒性はないが、菌が大量に増殖する時に畜産する毒素によって起きる食中毒。代表例が黄色ブドウ球菌。化膿した傷の中によく見られ、水虫、しもやけ、頭髪、副鼻腔などから検出されるケースも。原因となりやすい食品としては、握り飯、玉子焼き、シュークリーム、折詰弁当、仕出し弁当など。

 

 

講義の後、後半は、ワークショップ「事例をもとにリスクの洗い出しとその予防策を作る」を行いました。

     

    実際に富山県内で開催された金剛堂山への登山日程表からリスクを洗い出し、どのようにマニュアルに記載するかをグループで話し合ってもらいました。

     

      ワークショップの手順としては、

      ① 具体的な事例をもとに、リスクの発見(洗い出し)。4~5人でグルーピングされた各テーブルで、一人ひとりが、思いつくリスクを見つけ出し、付箋1枚につき、リスク1個を書いていく。できるだけ頭を柔らかくして考える。

       

      ② 各テーブルで1名ずつ、自分の書いたリスクを1個ずつ読み上げていく。他のメンバーは、自分が書いた内容と重なっているものをその付箋に重ねて貼り、グルーピングしていく。読み上げる人が、手持ちの付箋がなくなったら、次のメンバーが、続けて自分の付箋を読み上げていく。こうして全ての付箋が何らかのグルーピングされるまで続ける。

      ③模造紙に横線、縦線をひき、4分割する。横線はリスクの起きる確率(左側が0%、右に向かうほど100%)、縦線は危険衝撃度(上にいくほど衝撃が大、下にいくほど衝撃が少)となり、左上から時計周りに、注意地帯(イエローゾーン)、危険地帯(レッド)、灰色地帯(グレーゾーン)、安全地帯(グリーンゾーン)。先ほどのグルーピングした付箋を、「このリスクはマップのどの位置に属するか」をメンバーで話し合いながら、マッピングしていく=リスクマップの作成。

      ④完成したリスクマップを見ながら、そこからどのような「マニュアル文」が作れるか、模造紙に書き込んでいく。

       

      ⑤最後に、各テーブルごと、どういったリスクと対策があったかを発表(全体での共有)。

      という流れで行いました。

      参加者の皆さんからは、「体験ツアーを予定しているので、タイミングが良く聞けて参考になった。自分たちの常識を訪問客にどう伝えるかが大変、難しい」といった声や、「事例が 大変、参考になった」といった感想をいただきました。

      体験プログラムはもちろん、私たちの日常の様々なシーンに、ひっそりと潜んでいる「リスク」。それを事前に意識しながら行動するか、そうでないかでは、究極、命にも影響してくる重要な危機管理と言えます。講師の出口先生のコメントで印象的だったのが、「こうした研修会に参加する方々は、正直、あまり心配いらないです。逆に、参加されない方々の方が心配ですね」とのお言葉でした。

      様々な事故事例を突きつけられると、心身ともに引き締まるような思いになります。年に一度くらいは、こうしたリスクマネージメントの研修会に参加し、ご自身の「危機管理」への意識を再確認してみては、いかがでしょうか?

       

      出口先生、大変有意義な講義&ワークショップをありがとうございました!